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芸術と少年愛

 わたしの性的指向はまぎれもなくヘテロセクシュアルだろう。バイセクシュアルではなく、勿論ホモセクシュアルでもない。同性愛に対してはこれを忌避するが、しかし文学や芸術の世界を彷徨し逍遙している限り、忌避すべくもなくそうした世界に接することは避けられない。
 例えばわたしは稲垣足穂の『少年愛の美学』を読んだことはないし、おそらく今後も読まないだろう。わたしにとって足穂はさしたる重要性を持つ小説家ではないからである。それでも若い頃は先年歿した赤江瀑の小説に夢中になっていた時期があったし、中井英夫だって少しは読んでいるのである。江戸川乱歩が衆道に深い関心を持ち、男色文学研究の第一人者たる岩田準一とともに文献収集に余念がなかったことも夙に知られている。その成果が『孤島の鬼』であることも周知だ。歌人塚本邦雄の歌作にも少年愛や男性同性愛をモチーフとしたものが見られる。谷崎潤一郎は女好きだったと思うが、その弟子を自任する今東光という無類の女好きは、学生時代に寮の同級生や後輩などに、腕ずくで鷄姦したという自慢話を遺作『十二階崩壊』に書いている。ことほどさように本を読んでいる限り、同性愛の描写と出くわすことは茶飯事である。
 日本では戦場に馳す武将が、配下の小姓などを「若衆」と呼んで同性姦の対象としていた長い歴史があり、それは徳川家による安定政権の時代、女色を売る場所と並立する形で、非公許ではあったが「陰間茶屋」と呼ばれる男色専門の売春宿の存在に直結している。正否は知らないし、調べることもないだろうが、薩摩藩では衆道は珍しい物ではなく、明治政府が出来て以後、薩摩出身者の衆道の習慣が世上の話題に上ることもあったという。少年愛=男色は決してこの国において珍しいものではなかった。
 海の彼方に目を向けてみれば、こちらもこちらで百花繚乱の趣きだ。スエトニウスの『ローマ皇帝伝』を読めば、いかに多くのローマ皇帝たちが男色を楽しんでいたかがよくわかる。23代皇帝のヘリオガバルス(エラガバルス)などは夜な夜な街に出かけて自ら男相手の売笑に余念がなかった。
 サド侯爵の文学はザッヘル・マゾッホの文学とあわせてSMという言葉を生み出し、いまや日本ではプチSMなどといった言葉で表現されるカップル間のちょっとした前戯の一種に成り果てているが、サド文学は本質的に背教、背徳、放埒を称揚するものであり、吐き気を催すほど惨虐な暴力や殺人、屍体冒瀆などが描かれる。そしてそこには同時に、鷄姦を伴う男色行為も執拗に描かれている。
 サドより約百年遅れて英国に登場したオスカー・ワイルドは、戯曲『サロメ』や小説『ドリアン・グレイの肖像』でわたしを魅了した作家だが、妻子もいながら男色の愛好家で「少年買い」の常習者だった。当時の英国法によって男色行為が禁じられていたため、ワイルドはその性癖ゆえに二年間にわたり投獄されるという憂き目をみた。警抜なアフォリズムと耽美主義で世紀末芸術の旗手と讃えられた天才作家はこの投獄ののち、妻子に会うこともできず、再び輝くこともできないまま、故郷を離れたパリで貧困に喘ぎながらひとり寂しく死んだ。
 文学のことばかり書いたが、わたしが最も愛する映画作家の一人であるルキノ・ヴィスコンティは、バイセクシュアルであることを隠していなかったという。ヴィスコンティの映像美の頂点に立つ『ベニスに死す』は、トーマス・マンの短編小説を映画化したものだが、登場人物の少年タッジオ役として、ヴィスコンティはビョルン・アンドレセンという無名の美少年を見出した。この映画はビョルン・アンドレセンの美貌とヴィスコンティの美意識との稀有な合一の上に存在している。ヴィスコンティの美男好みは、早くは『若者のすべて』『山猫』におけるアラン・ドロンの起用があり、『ベニスに死す』を経て『ルートヴィヒ』『家族の肖像』でのヘルムート・バーガーに至る。ヘルムート・バーガーは『地獄に落ちた勇者ども』でも主役ではないものの重要な役を与えられており、ヴィスコンティ晩年に最も寵愛された俳優であった。そしてヘルムート・バーガーが出演するこれらの作品には、いずれも男性同性愛を示唆する演出が盛り込まれている。
 とりとめもなく文学や映画に現われる少年愛、男色について書きとめて来たのだが、わたしがこんな文章を書いておこうと思うきっかけになった小説家について、最後に言及しておかねばなるまい。
 19世紀の英国に生れて、聖職者をこころざしながら神学校を放逐され、画家で身過ぎを立てようとして果さず、小説家に転じて幾許かの著作をものしながら、その他者への強い依存と、依存が充たされなくなった時に見せるこれまでの支援者や協力者への激しい攻撃性などから、やがて援助する者もなくなって行き、最後にたどり着いたヴェネツィアの地で孤独と極貧の中に野垂れ死んだ男、コルヴォー男爵を僭称したフレデリック・ロルフである。
 ふとした関心からロルフに関する書物を立て続けに読んだ。A.J.A.シモンズの『コルヴォーを探して』、河村錠一郎の『コルヴォー男爵 知られざる世紀末』、セシル・ウルフ編『ヴェネツィアからの誘惑 コルヴォー男爵少年愛書簡』の三冊である。外国人著者のものは、どちらも河村錠一郎の翻訳にかかるもので、日本でロルフに関する文献というのは河村の専売特許になっている。
 ロルフの著作は代表作『ハドリアヌス七世』も含め、邦訳はない。したがってわたしも読んでいないのだが、英語圏においてもおそらく殆ど知られていない作家であろう。その『ハドリアヌス七世』を偶然読んだシモンズが、ロルフという人物の人生軌跡を追跡するドキュメント仕立ての評伝が最初に挙げた作品で、河村の著作はシモンズの著作を前提として、ウルフ編の書簡集やロルフの小説に対する分析的視点を架設して構築されている。
 問題はウルフが編んだ書簡集である。ここに収録されたロルフの書簡群は文学的好事家の間では夙に知られていたというが、シモンズは『コルヴォーを探して』の中で、この書簡群を「読み進むうちに髪の毛が逆立ってきた。『ハドリアヌス七世』と同じ直戴で的確な文体に乗せてそこに記されていたのは、一つの魂が一歩一歩破滅の道を歩んでいくさまを計らずも記録したものにほかならなかった」と評した。
 そこには書かれているのは、ヴェネツィアの地でホームレスすれすれの境遇に迷い込み、他人からの施しを受けることによってしか露命を繫ぎとめることができなくなったロルフという異才が、偶然知り合った少年愛嗜好の英国人実業家に対して、極めて露骨な性行為描写を交えて、少年を斡旋する仕組を作るための資金を求める内容であった。かつて聖職者をこころざした人物が、少年を商品とするポン引きにまで落ちぶれるとは! しかしロルフの異様さは、知り合った医師の住居の階段の石造りの踊り場に毛布一枚だけで寒を凌ぎながら、その家の使用人たちに対して高慢な優越感を隠そうともせず、英国人実業家を性行為描写によって煽り立てて僅かな金を手に入れる一方で、仲違いをした英国の出版人との間に果てることのない闘争を繰りひろげ、あまっさえ出版社が1シリングたりとも儲けることができないようにするために自分は著書の出版を認めてやらないのだと嘯く始末である。芸術家のプライドと言えば聞こえが良いが、このロルフの態度は、天地ほど開いた自他の境遇の差を考えれば、もはや妄想か幻覚の類であろう。
 そしてたまさか手にした金で、気に入りの少年をホテルに伴い、一日中少年の肉体を貪って、どのようにして射精したかをまで書き記した書簡をまた英国人実業家に送りつける。唾棄すべきは極貧ゆえに迷わされ錯乱させられた精神なのか、それともロルフが本質的に持つ奇矯で無道徳な精神なのか。
 シモンズがこの書簡群を見て髪の毛が逆立ったというのも宜なるかな。コルヴォー男爵フレデリック・ロルフの人生軌跡そのものは、天才と狂気の境界をうかがう好例といえ、それなりに感興深いものがあったのだが、しかしウルフ編の『ヴェネツィアからの誘惑』の読後感は、わたしの性的指向からすれば、極めて後味の悪いものであった。
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tag : フレデリック・ロルフ 赤江瀑 中井英夫 江戸川乱歩 塚本邦雄 今東光 サド オスカー・ワイルド ルキノ・ヴィスコンティ 川村錠一郎

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